夢ノ後先

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 見回すと、いつの間にかギャラリーが増えていた。  うさぎ小屋、ここに移動になったんだね。  落ち着いたんだね。  良かった良かった。  あ、あの人、屋上からビラを撒いた人だ。  聞こえてくる聴衆の会話は、小屋の移動を認めるものだった。  昨日の派手なパフォーマンスが、ここに来て実を結ぶ。  それに気付いた校長は、更に焦った。 「こんな、小屋のことなど許可していない! こんな──」 「寄付ですよ」  ザワリ。    その声がした途端、ざわめきが一瞬大きくなってから、ピタリと止む。  まばらな人垣の間から、その人は颯爽と登場した。 「あ」  アリスが口を開ける。  月白の髪の青年が、校長の前で止まりお辞儀をする。 「校長先生、お久しぶりです。創立百周年、おめでとうございます」 「君は……」  青年を見て、校長の勢いが鎮まる。  彼は淡々と続けた。 「この度はそのことを記念して、友人と僕から小屋を贈ります。事務長に許可をいただけたのが昨夜のことなので、サプライズとなってしまいましたが」 「えっ?」 「はっ?」  その言葉に、校長だけでなくアリス達も残らず驚く。  そんな話、聞いた覚えがない。  彼──昨晩の白の青年は、更に続けた。 「事情を知って、協力したいと申し出ましたら、事務長にもすごく感謝いただけまして」  そこで言葉を切って。 「喜んでいただけたでしょうか?」  にっこり。  彼が微笑むと、ギャラリーから拍手が起こった。 「ぐ、ぐぬぬ……」  考え付きもしなかった話に、校長はどうしたら良いか分からず悔しそうに唸る。  それを見て、白の青年は冷笑を浮かべた。 「こちらは、全て分かっているのですよ」 「何を……」 「もう良いですよ」  白の青年が聴衆の後ろへと声をかける。  すると、そこからまた人波をかき分けて、更にもう一人登場した。 「はい、お疲れ様。成功した?」 「上々です」 「それは良かったよ」  出てきた彼──薄茶の髪の青年は、白の青年に明るく笑いかけた。  その腕に、ホワイトと三月を抱いた状態で。 「ぶ、部長、あれ」 「うん、アリス。どういうことかしらね」  ひそひそと女子二人が顔を寄せ合ったその時だった。    聴衆の後ろから、鋭い鳴き声が上がったのは。  コケ────ッッ!! 「わっ」 「何!?」  大きな鶏声が、一帯に響く。  混乱した聴衆がバラバラと散る。  立派な赤いとさか。  威嚇するように広げた羽。  そこには、一羽の雄鶏が威風堂々と立っていた。 「見ていてくださいと言ったでしょうに。仕方ありませんね」  白の青年は、急に出現した鶏に動じることなく近寄っていくと、スッと抱き上げた。  そして校長に再び視線を戻す。 「この鶏でしょう。校長先生が、小屋を壊したかった理由は」
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