夢ノ後先

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「ななな、なんでここに……!」  校長はあからさまに狼狽して後退る。  威勢の良かった鶏は、白の青年の腕の中で大人しくしている。  彼に代わって手を挙げたのは、アリス達の横にいたヤマネだった。 「ふああ……いやあ、こんなに急いで小屋を取り壊すなんておかしいと思って、調べたんですよねえ。あ、俺、ご近所の事情にも詳しいんで」  眠たげに目を擦りながら、ヤマネはゆったりした口調で解説を続ける。 「そしたら、どうやら近頃校長先生のお宅では、親戚から鶏を押し付けられたそうじゃないですかあ。(とき)の声がうるさくて、最近は近所からも苦情が来ているとか、なんとか」  ヤマネの言葉に、アリス達の目が険しくなる。  途端、校長が視線を逸らし縮こまる。 「まさか……」 「うさぎ小屋の取り壊しを進めたのって……」 「ホワイトと三月の居場所を奪って、代わりに鶏を飼おうとしていたからなんですね!?」  アリスは人差し指を突き出し、糾弾した。   「うっ……」  校長の反論がないことが、何よりの肯定だった。 「なるほどね。昨日の業者サンは、取り壊しじゃなくて、改修のための業者サンだった訳だ」  チェシャが訳知り顔で、うんうんと頷く。  聴衆から盛大なブーイングが上がった。  なんて校長だ。  自分の事情で、うさぎを追いやろうとしていたなんて。  ひどい。あんまりだ。  生き物の命に責任を持て。  声は次第に大きくうねっていく。  校舎の窓から中庭を見下ろす生徒が、教師が、段々と増えていく。 「まあまあ、それで校長先生も大変だと思いましてね。そこで寄付という訳ですよ」  非難の嵐の中、ただ一人茶の青年だけが、優しげに校長に声をかけた。 「というと……」 「はい。行き場のない鶏には、中庭に作ったこの新しい小屋を提供します。認めていただけますよね?」 「……」 「これで、うさぎ小屋をわざわざ壊す必要も、なくなりましたよね?」  にこにこと、茶の青年は人好きのする笑顔を浮かべる。  その笑顔に(ほだ)されたのか、校長はやがてガックリと項垂れた。 「……済まなかった……」  校長がボソリと、謝罪の言葉を呟く。  学校中に響くように盛大な歓声と拍手が上がったのは、それから間もなくのことだった。
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