エピローグ

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エピローグ

 その日、中学校はうさぎ小屋の話でもちきりだった。  四人はお伽噺の名ではない本名で一日を乗り切ってから、放課後再び中庭を抜け、小屋前に集まった。  いつもどおりの小屋で、ホワイトは相変わらず落ち着いているし、三月も相変わらず動き回っている。  いつもと違うのは、小屋の周りにギャラリーがいること。 「随分、賑やかになったわね」 「オレはいいよ。どの道、小屋の上にいるから」  クイーンが息を吐き出せば、チェシャがお気楽に返す。 「うさぎと鶏の世話についても、今後は飼育委員を置くことを検討するそうだと」 「良かったです。秘密の場所でなくなってしまうのは、ちょっとだけ寂しい気もしますけど。でも、ホワイトと三月と鶏が安心して暮らせることの方が大事です」  帽子屋の言葉に、アリスは笑みを零す。 「取り壊し、もとい改築の予定だった業者さん達も、今頃は鶏小屋の建設に向けて話し合い中だそうね」  中学生と高校生が突貫工事で作った新しい小屋は、ヤマネによればパフォーマンス用の見本だったらしい。  大先輩達が手配した新しい材料で、専門家が小屋をしっかり建て直してくれるならば、鶏の新天地として大いに安心できる。 「ところで、帽子屋先輩」  アリスは、一人浮かない顔の彼に声をかけた。 「大丈夫ですか?」 「改めて考えると、俺は何てことをしてしまったんだろう……」  帽子屋はグレーのキャスケットを深く被り、コールドグレーのシャツの胸元を握った。 「もう、先輩。今更じゃないですか」 「そうよ、停学にもならなかったし良いじゃない」 「ああぁぁ……もう、俺を放っておいてくれ……」  はああ、とあからさまに溜め息を吐く彼は、すっかりいつもの帽子屋だ。  間違っても、アリスですらどうしようもない危険人物には見えない、苦労性の飼育係。  とにかく停学などにならず、反省文で済んだのはとても喜ばしいことだった。  苦虫を噛み潰したような表情で、帽子屋は告げる。 「当分、変な騒動は禁止な」 「えー」 「つまんないわ」 「良いから禁止!」  頬を膨らませる女子組に、帽子屋は湯気を立てんばかりに繰り返す。  そんな様子を見て、チェシャはおどけながら問う。 「でも帽子屋サン、楽しかったっしょ?」 「うっ……それは、」 「ほら、答えないと針を」 「楽しかっ、た!」  顔を真っ赤にさせながら、慌てて帽子屋が返答する。  それをアリスが笑う。  クイーンが面白半分につつく。  チェシャがそれを更に煽って、(はや)し立てる。  皆が揃って、ようやく日常が帰って来た心地がした。
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