七転八倒

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 校長はアリスの方を向くと、大きな大きな溜め息を吐き、語調を強めた。 「小屋の撤去には別の理由があるんだ」 「別の理由って何ですか!」 「作業が終われば分かるだろう。お前達には関係ない」 「関係ないって──うさぎ達には関係ありまくりですよ! それに私達にだって──」 「アリス」  帽子屋が小声で呼び止め、アリスの袖をつんと引っ張った。  噛み付かんばかりの勢いは、それで止まった。  一番重要なのは、うさぎの処遇だ。  小屋に屯している自分達の都合を持ち出すのは、我儘な話。さすがのアリスも理解していた。  二人が押し黙ったのを良いことに、校長はドアを指差した。 「ほら、分かったら帰りたまえ。何度聞かれても答えは同じだからな」  聞き分けのない生徒に呆れた眼差しを向ける校長。  なぜそんな目を向けられるんだ、とカチンと来たが、帽子屋に「引こう」と言われ、アリスはすごすごとドアへ向かった。 「……失礼しました」  悔しさを声に滲ませながら、帽子屋が静かに校長室の扉を閉める。  退室した途端、二人揃って深い溜め息が出た。 「何ですかあれ、全然聞く耳持ってくれないじゃないですか……!」 「こらアリス、聞こえるぞ。学校の姿勢はよーく分かった。作戦の練り直しだな」  低い声で呟いて、帽子屋は手に持っていたグレーのキャスケットを被る。  ともあれ、これでアリスもしっかりと理解した。    中学校は、本気でうさぎ小屋を潰すつもりだということ。  一生徒の真摯な抗議は、歯牙にもかけないということを。 「こうなったら、実力行使しかないですね! どうしましょう? 校長室に立て(こも)るとか……!」 「アリス」 「はい?」 「声が踊ってる」  帽子屋に呆れたような声を向けられ、アリスは両手で口を塞いだ。  うさぎの平和を脅かす校長は、敵だ。  ならば徹底的に逆らいたい。  燻った怒りの分、ちょっとくらい痛い目を見せてやりたい。  そしてどうせやるなら派手に、面白く。  過激な方向に突っ走りだしたアリスの思考を、帽子屋はいとも簡単に見抜いて釘を刺した。 「へへ」 「誤魔化すな」  愛想良く笑うと、額を小突かれた。   「あたっ。じゃあ帽子屋先輩、これからどうすればいいんですかー」  頬を膨らませながら問う。  帽子屋はアリスの顔を見ると、強張った表情を少し和らげて、ポリポリと頬を掻いた。 「ああ、そうだな……。学校の姿勢は分かったが、まだ目的も何もかも不透明だ。何をするにしても、まずは情報収集だな」
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