エピローグ

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「ふー、ふー。あら、たくさん飛ばすと綺麗だわ」 「本当だねえ。あ、ふああ、眠気が……」  クイーンが、蓋付きのピンクのボトルにストローを浸け、小さなシャボン玉を大量に飛ばす。  夕陽の中で、浮かんではパチ、パチと弾けるシャボン玉を見て、ヤマネが眠そうにあくびをする。 「こうやって実際に作るのは初めてですね」 「ホワイト先輩、本当ですか?」 「ホワ……っ?」  ストローを不思議そうに吹く、白髪の先輩の感慨深げな呟きに、帽子屋が反応する。  しれっと付けられた新しいあだ名に吃驚している彼の横で、茶髪の先輩が大笑いする。 「じゃあ僕は『三月先輩』かな? あはは、見てごらん、シャボン玉はこんなに大きく作れるんだよ」  茶髪の先輩が慎重に吹いて作ったシャボン玉は、一つ一つが大きい。  プカリと浮かんで、虹色に(きら)めいて、小屋の上へと漂っていく。 「へへ、大きさなら負けないよ」  その横をチェシャが走り過ぎる。  浅い黄色のバケツに張ったシャボン液に浸け、丸く曲げた針金ハンガーで作った巨大なシャボン玉が、蛇のように長くたなびく。  そして一つの玉になったかと思うと、パンと弾け、周囲にシャボン液を撒き散らした。 「うわっ」 「目に入った!」  騒いで、笑って。  めいめいに作ったシャボン玉が、プカプカと小屋の上へ飛んでいく。 「あはははは! 花火も綺麗ですけれど、シャボン玉も楽しいですね!」  その光景を眺め、腹を抱えて笑う。  帽子屋はふと思い出したように、アリスに声をかけた。 「そういえば、アリスはどうなんだ? 何か言うことはないのか?」 「へ?」  虫取り網のように、シャボン液を浸した枠を振り回していたアリスは、動きを止めた。  そして、先程皆が抱負のようなものを語っていたことを思い出す。 「何だ良秋、口説いてるのかあ」  端で聞いていたヤマネが茶化す。 「違う! 悪いアリス、もうい──」 「私はですね?」  フワリと。  アリスは、一際大きなシャボン玉を空に飛ばして、言った。 「現実が、覚めてほしくない夢みたいに、大切なものであってくれることが、すごく、すごく幸せです!」    はっきりくっきり。  曖昧さのない声で断言する。  帽子屋と初めて会ったときのように、心の底から込み上げてくる歓びを満面に浮かべながら。  それを見て、そこにいる全員の顔が綻んだのを。  夕暮れの校舎を。  オレンジ色に染まったうさぎ小屋を。  ゆらゆらと映した、虹色のシャボン玉が、夕焼け空に吸い込まれていった。 <了> 330e9853-052c-4329-b4c6-8d1502bc49c0
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