七転八倒

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+++  味方がいない訳ではない。  味方が少ないなら、増やせば良い。  理科教師から情報を得て、立てた作戦その三は署名活動だった。  数の力がないなら膨らませるまで。  要するに、取り壊し反対の賛同者を増やそうと動くことにしたのだ。  バインダーに空欄の並ぶ紙を挟んで、戻った自分の教室。  そこには既に茶髪の男子が待機していた。 「チェシャ! 遅刻しないなんて珍しいですね!」 「あのね、さすがにうさぎの危機とあらば、オレだって協力するよ」  ガシガシと頭を掻きながら、チェシャは不服そうに応えた。  彼、チェシャは、アリスのクラスメイトだ。  制服のズボンから出した白いシャツ。  全開にした紺ブレザー。  ワックスで緩く形作り、昼を過ぎると崩れて猫耳のような形になる茶髪。  遅刻早退当たり前。  授業サボりも何のその。  なのに成績はいつも学年首位。  いつからかうさぎ小屋の屋根を気に入り、昼寝をしに来るようになった問題児である。 「この前は帽子屋先輩と私、二人で校長室に送っておいてですか?」 「帽子屋サンとアリスの方がいいと思っただけだよ。オレが行ったらまず服装を正せって言われるし」  チェシャは(ひょうひょう)々と笑む。  身だしなみを改めるという考えは端からないらしい。  ボールペンとバインダーを持ち、支度を整えたチェシャは、人差し指を立てて説明を始める。 「けど、生徒相手に署名を集めるなら別っしょ。オレの格好もまあまあ役に立つってこと」 「どういうことですか?」 「いい? アリス。帽子屋サンと女王サマは『優等生チーム』。そんな人達が真剣にうさぎを守ろうと活動していたら、順当に署名が集まるでしょ?」 「? はい」  真面目で実直、人の嫌がることも引き受ける苦労性の帽子屋。  調理部部長を務め、教師陣からの評価が抜群に高いしっかり者のクイーン。  二人は今、三年の教室をペアで回り、署名を集めているはずだ。 「じゃあ、授業をサボるような茶髪の問題児が、うさぎを守ろうと活動していたらどう思う?」 「そうですねえ。意外だなって思うかもしれません」  現に仲間のアリスでさえ、真面目に活動に参加するチェシャを見て驚いている。  チェシャは悪巧みをするように、ニヤリと笑んだ。 「そう、『不良がたまにイイコトするとなぜか株が上がる』現象。オレは悪い意味で有名だし、活用しない手はないっしょ?」 「なるほど! すごいです、チェシャ!」  アリスは素直に称賛する。  変に頭が切れるのは、さすが学年首席というべきか、さすが悪ガキというべきか。 「よーし! じゃあ、私達も回りに行きましょう!」  疑問もなくなり晴れ晴れとした気分になったアリスは、気合いを入れて拳を上げた。  チェシャもダラリと腕を上げる。 「おー! 『問題児チーム』、出発だね」 「……ん?」  ご機嫌そうに机を離れるチェシャの言葉に、多少引っかかりを覚える。  が、それも一瞬のこと。すぐに切り替えたアリスは、パタパタと彼の後を追った。
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