鼾ーイビキー

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 俺だって、幽霊やオカルトの類を信じる方ではない。夏になったら放送される心霊番組もほとんど見たことがないし、見ても絶対嘘だと言っているタイプだ。  それでも、録音されている声はあまりにも気味が悪く、この世のものとは思えないような低い獣のような声だった。 「ち、違うって。そんなに言うならお前も聞いてみろよ!」  懐疑的な青木に、俺はイヤホンを差し出した。  半笑いだった青木は、イヤホンを耳にした途端、固まった。 「嘘……ヤバいよ、これ……」 「な? 入ってるだろ? どうなってんだろ。このアプリがおかしいのかな? それとも……」  俺の家?  住んでからもう十年以上経つのに、今さら怪現象なんて起こるもんなんだろうか。  入居する前に事故物件だという告知もなかったし、この声以外におかしな現象が起こったこともないはずだ。  いや、もしかしたら、今まで俺が気がつかなかっただけ?  自分のイビキと同じということか?  本当はずっとおかなしことが起こっていたけど、俺が気づいてなかっただけ……? 「あのさ……」  混乱する俺に、青木が神妙な顔で切り出した。 「この前泊ったホテルだけどさ。駅からどう行けばいいのか分からなくて、事前に検索したんだ。そしたら……」 「そしたら何なんだよ」 「あのホテル、かなり昔にバスルームで自殺した女性がいるらしくて。何年か前にリニューアルオープンして、今はその部屋はないみたいなんだけど、もしかしたらこの間泊った部屋が以前そのバスルームがあった場所だったのかもしれないなって思って」 「ええ? なんだよ、それ。気味悪いなぁ。お前はこの声がその自殺した女性の声だって言いたいのか? けど、これはホテルで録音したんじゃないぞ。帰ってから家で……っ!!」  自分で自分の言葉に、戦慄が走った。
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