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まさか、その女を連れて帰って来たってことか……?
「嘘だろ、そんな……どうすればいいんだよ」
そういうものをまったく信じていない俺は、こういう時どうしたらいいのかさっぱり分からず、途方に暮れた。
「そう言えば、総務の大河内さんってこういうの詳しいんじゃなかったっけ?」
青木の情報に縋る思いだった。俺はそのまま総務課の大河内さんを訪ねた。早くしないと、昼休みが終わってしまう。
「ごめんね、急に。で、聞いてみてどうだった?」
大まかな事情を説明し、とりあえず録音を聞いてもらった。
大河内さんは物静かで、色白に長い黒髪に黒縁の眼鏡という見た目とオカルト好きという性格が災いしてか、みんなから少し気味悪く思われているところがあり、陰で貞子なんて呼ぶ人もいた。
俺も彼女と話すのは、これが初めてだった。
「……私は霊能者じゃないし、この声の正体が何なのかは分かりませんけど、すごく強い念だけは感じます。一度、私がよく行くお寺の住職に聞いてもらいます? よければ紹介しますけど」
心強い言葉に大きく頷くと、俺は人生で初めてオカルト的な理由でお寺に行くことになった。
すぐにでも家に連絡して、今日の出来事を話そうかと思ったけど、妻は怖がりでこの手の話にめっぽう弱い。
解決するか、家ごとお祓いしなければいけない事態になるまでは内緒にしておこうと思った。
その夜、俺は大河内さんに紹介してもらったお寺の住職と会った。
今はまだ自分が取り憑かれているのか、呪われているのかよく分からないけど、それでもお寺に入ると守られているような安心感があった。
俺は住職に知り合いなんていないので、もっと怖そうな人かと思っていたけど、小太りの優しそうな顔をした物腰柔らかな人だった。
「大まかなお話は大河内さんから伺ったんですが、詳しくお聞かせ願えますか」
「あ、はい。実はですね……」
いくらか緊張しながら、俺は住職に今日の出来事を話し、録音アプリの声を聞いてもらうことにした。
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