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「ああ、確かに声がしますね……」
うんうんと頷きながら、住職は確かめるように何度もその声を聞いていた。
俺は一度でも怖くて堪らなかったので、何度も聞けるのはさすがだなと思った。
「あのう、大変言いにくいことなんですが……」
しばらくしてイヤホンを外すと、住職はそう切り出した。
まさか、とんでもない悪霊が憑いているとか言わないよな?
住職の言葉に息を呑む。
「この声なんですが、何度聞いても霊的なものを一切感じないんです」
「え……? と言いますと?」
「お会いしたことがないので、はっきりと断定はできないんですが、これは奥様の声だと思います」
思いもよらなかった答えに、体中に鳥肌が立ち、背筋が凍り付いた。
『フフフッ……フフフッ……苦シメ……モット苦シンデ 死ネ……』
録音されていた内容を思い出すと、さらにゾッとした。
「そ、そんなまさか……妻が私に向かって「死ね」と言ってるということですか? 私がホテルから連れて帰って来た幽霊が妻に取り憑いてるとか、そういうことではないんですか?」
どうしても信じられなくて、俺は身を乗り出すようにして訊いていた。
「そのホテル、改装後に一度招待されて私も泊ったことがあるのですが、きちんとお清めされていたので霊的なものは何も感じませんでした。今後、もし何かあったらお祓いをしてほしいと頼まれたのですが、改装後に幽霊が出たという話は聞いていません。ですから、ホテルから幽霊を連れて帰って来たんではないと思います」
微かな希望まで打ち砕かれたような気がした。
「憶測で申し上げるのは大変心苦しんですが、音量を上げて聞いてみますと、少しの間イビキが止む瞬間がありますよね? これは、無呼吸になっているんではなくて……その……奥様がご主人の首を絞めているんだと思います。一瞬、「ううっ」というご主人の苦しそうな声と、もがいてシーツが擦れるような音が入っていますので」
突然、突き付けられた現実に息ができなくなった。
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