序章

1/9
前へ
/18ページ
次へ

序章

1―  立ち並ぶ高層ビルの屋上から纏めた長い黒髪と、羽織ったコートの裾を風にたなびかせ、1人の少女が地上を見下ろしていた。聞こえてくるのは道路沿い各部に設置されたスピーカーから発せられる警報音と無機質な避難誘導音声。  混じって銃声だろうか。  散発的ではあるが小気味よく刻まれる破裂音。  金色に輝く瞳に映るのはゆっくりと浸食を進める黒い靄。  全てを飲み込まんとする靄の中で一際暗い、漆黒の影を彼女の瞳が捉える。 「連結(リンク)」  低く落ち着いた声色で淡々と発した言葉に反応し、少女が両手に持つ”何か”が淡く光を纏う。数秒もしないうちにそれは幾何学的な円を描いていた。  彼女は自らの足を屋上の外へと進める。そこに何かがあるかのように、それが当然であるかのように。  しかし、彼女の小さな身体は即座に重力に捕らわれ落下を始める。  常人であれば即座に意識が恐怖で途切れてしまう高さからである。  だが、落下する速度が増していきながらも、少女の表情は変わらない。  ただ一言、 「戦闘開始」  呟いた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加