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序章
1―
立ち並ぶ高層ビルの屋上から纏めた長い黒髪と、羽織ったコートの裾を風にたなびかせ、1人の少女が地上を見下ろしていた。聞こえてくるのは道路沿い各部に設置されたスピーカーから発せられる警報音と無機質な避難誘導音声。
混じって銃声だろうか。
散発的ではあるが小気味よく刻まれる破裂音。
金色に輝く瞳に映るのはゆっくりと浸食を進める黒い靄。
全てを飲み込まんとする靄の中で一際暗い、漆黒の影を彼女の瞳が捉える。
「連結(リンク)」
低く落ち着いた声色で淡々と発した言葉に反応し、少女が両手に持つ”何か”が淡く光を纏う。数秒もしないうちにそれは幾何学的な円を描いていた。
彼女は自らの足を屋上の外へと進める。そこに何かがあるかのように、それが当然であるかのように。
しかし、彼女の小さな身体は即座に重力に捕らわれ落下を始める。
常人であれば即座に意識が恐怖で途切れてしまう高さからである。
だが、落下する速度が増していきながらも、少女の表情は変わらない。
ただ一言、
「戦闘開始」
呟いた。
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