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父親のそんな、情けない姿――もとい、全身全霊の訴えに唖然となる息子は、引き攣った顔の引き攣った口端から虫の羽音程の声を絞り出して、
「――え? 嫌、だけど」
さらり、けんもほろろに拒否する。
日本本州津々浦々は、主に梅雨明けの頃である。
そして現在は、そんな時節の、とある木曜日の夜であった。
「なんでじゃ!? なんでなんでなんでなんでなんで……」
一向にジタバタを止めない父。
「いや、だって……プライベートな事だから」
全力駄々っ子の体から一転、両肘をついて蹲った。
「頼むよぉぉぉおおおおおっ! アレクサンドロス大王様ぁぁぁあああああっ!」
「アレクサンドロ――、ってただ誕生日が同じだけだし……」
玉主澪久の誕生日は七月二十日である。
「……ごめん、無理なものは、無理」
硬直する場、暫しの沈黙が流れ――
「うぉぉぉおおおおおおおおあああああああ毎日がパルティア戦争ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!」
「う、うん……頑張って、父さん……」
玉主アントニーの誕生日は四月二十六日、かのローマ五賢帝時代最後の皇帝、マルクス・アウレリウス・アントニヌスと同じであった。
果たして、その人生の苦労受難も、かの偉人と同質同量――であろう、か……?
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