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ラトは微笑みつつ、気付いたように顔を上げ、視線をさ迷わせている。
「…劉騎、"アレ"ハ強いゾ。」
「あア。」
「二人で勝つノハ難しイ。」
「そうダナ。」
「…援軍ヲ待つにしテモ、仕留めルにしテモ、消耗戦ダ。」
「…援軍ヲ持つナラ引き付けなイトいけないシ、致命傷ヲ与えるナラ、一撃の消耗が激しくなるって事ダナ。」
「ショットガン、もろともしてないシナ。」
「でモ…」
「…劉騎も気付いたカ。」
眼前のショットガンが発砲される一瞬、ラトは右に顔を反らした。
「もしかするト、アイツの弱点ハ…」
「…ヤツの右目を狙うゾ…」
劉騎と黒羊はラトに向かって走り出した。
「……」
民家の影から1人の影が事の顛末を見ていた。
(ラト…)
怨みがましく、ソッと心の中で囁く。
パタパタパタ…
胴体に不釣り合いな大きさの羽を羽ばたかせ、黒い羊のぬいぐるみは頭の上に乗った。
むいむい、と手足をばたつかせるぬいぐるみ。
「…ダメなんだよ、鎧翔。私はまだあの子を助けに入れないのさ。」
艶やかな声音は羽の生えた黒羊のぬいぐるみに優しく囁く。
「あのダメな神様が元気な間はね、加勢に入っても意味がないんだよ。…いや、あの子が…黒羊がどうなっても良いだなんて思ってないよ。あんな神様にみすみす殺させやしない。」
頭の上の鎧翔を優しく抱き抱え、妖艶に笑い掛けた。
「鎧翔…、私の命の一滴よ。"不自由な"私に変わってその羽で報せておくれ。」
鎧翔は頷きも無いまま静かに飛び立った。
(彼が間に合えば良いが…)
一人残った人物は笑う。
無力な自分と自分が取った行動が招くであろう混沌の結果に。
(みんなが失わないために、それぞれ傷付いてもらう…だなんて不誠実な嫌なヤツだね。私って言うヤツは。)
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