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「いらっしゃいませー!」
店を手伝ってくれてくれしている店員がドアの方を向きながら声をかける。鞠音も笑顔と共に視線を向け、息を飲んだ。
柔らかそうな白髪は先端が海のように青い。
白い袖の長い衣装。
そこに大柄な男が立っていた。それも裸足で。
浮世離れした雰囲気と姿。
暗く輝く金色の両目が鞠音を見ている。
「っ…」
鞠音は息を飲み、同時に息苦しさに目眩を覚えた。そしてそれ以上にひとつの思考に囚われていた。
(これは、危ないものだ…)
逃げたい。と。
「…どうして…」
冷や汗が止まらない鞠音に対し、玲瓏な声音で白い男は笑いながら囁く。
「どうして、君はそんな物に入っているの?」
「?…」
(何のこと…?)
鞠音は何のことか解らない。冷静に危険回避しなければ行けないことを考えつつ、逃げ場がなくて脚が動かなかった。
「ー失礼、お客様?」
異様な雰囲気に、店員の一人が声を掛けてきた。
「君は器なんて要らないのに、どうして、人間のふりなんてしてるの?」
白い男は、店員に見向きもしない。
鞠音に、しかし、鞠音ではない何かに語りかけている。
「そんな邪魔なものは私が壊してあげよう。」
白い男は7本の手にした純白に輝く長剣を掲げながら言う。
「店長!下がって!」
ーわんっ!
潮を纏わせ、店員の一人がが鞠音と男の間に駆け出すのと、鞠音の脳裏に犬の鳴き声が届くのは同時だった。
がくん。
白い男の長剣が不自然に起動を曲げた。
ー犬だ。
白い男が入ってきたままのドアから犬が飛び込んできて、男の裾に噛み付いた。
「!」
低い姿勢から斬り上げた惨劇への応戦と、飛び込んできた犬のお陰で、一瞬、白い男に隙ができた。
すかさず鞠音は転がるように外に出る。
(逃げなきゃ…、領主さんの館…?でも、あっちには兄さんが…っ)
瞬時に判断し、館から遠ざかるように郊外に向かって鞠音は走った。
木履(ぽっくり)では走れないので、脱ぎ捨てる。足が痛いが、気にしてはいられない。
(あの人…人間じゃなかった。領主さんの敵って言う魔族の人?でも…、なのに、最初から、私しか見てなかった。だったら、私を追いかけて来る…はず。)
店から離れているのに、背中を撫でる殺気が離れない。
どうしたら良いのか解らない。
怖くて泣き出しそうになるが、とにかく…
(他の人が居ないとこに!!)
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