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唸り声を上げて、何処かから現れた数匹の犬がラトに噛み付いた。
「いたた。痛いなぁ…。」
ラトは纏わり付く犬を斬り捨てる。
「邪魔をしないでほしいよ。」
臆することなく絶命するまで噛みつき続ける犬に、ラトは言う。
長剣が振り下ろされ、鞠音を襲う。
鞠音は咄嗟に頭を抱えて身を屈める動作を取った。路上に倒れ込むが、すぐに走り出した。
「…」
ラトの目には、燃えるような目でラトを忌々しげに凝視する白い犬が見える。
(祟り神の類いか…)
犬神は蔑むように呟く。
人間なら舌打ちをしていただろう。「面倒臭いヤツが来た」と。
(忌々しい腐れ神め!この娘に手を出すんじゃないよ!)
苛苛と吠える犬神。
犬神とは飢えの果てに呪物となった悪霊。怨みや憎しみの化身であるがゆえにその感情が高まれば自然と存在は濃くなる。
つまり影響するのだ。周囲に、敵対者に。
空気を割るような咆哮が薄い硝子片のようにラトに突き刺さる。
ブチチ、とラトの身体の繊維を傷付ける。
「……君、やっぱりその人間から離れられないんだね。」
ラトは犬神に吠えられながらも、微笑んでいる。
ラトは初めから犬神を見ていた。
鞠音に宿る、犬神に話し掛けていた。
人間である鞠音に宿る、呪詛の怪異である犬神に。
(だったら何だ、貴様に関係ない。でしゃばるな。邪魔をするな。私は貴様など必要としていない。)
口を開け、威嚇する犬神。
怒りが高まってるのか、犬神の瞳はギョロギョロと煮えるように動いている。
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