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「どうしてそんな事をしているの?」
走る鞠音の背後から、玲瓏とした声がする。
鞠音にも聞こえるその声は、遠くに聞こえた。
「その人間が大切な訳じゃないのに。」
倒れたときに擦りむいた傷が熱く痛む。
それでも足を進めたのは、進めることができた理由は、ただひとつだ。
「本当は何が大切なの?」
ラトの言葉に、鞠音の意識は水を打ったように冷たく研ぎ澄まされる。
一心不乱に走っていた鞠音が、ラトを振り返った。
「…領主の館は反対方向だ。戦う術もないのに、どうしてそっちに逃げているの?」
走っているから、ではない。ドクン、ドクンと胸騒ぎがして、鞠音は足を止めた。
「危険だから、遠ざけたいのかな?」
鞠音はその声を、言葉を聞かないことはできなかった。
「領主の館に大切なものがあるんだね。」
(腐れ神が!その口を閉じろ!!!)
飛び掛からんばかりに怒鳴り付けた犬神が、ピクリと反応する。
「…」
足を止めた鞠音が、ラトに振り向いた。
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