欠片 ふたつ

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言葉は波のように押し寄せて、 僕を飲み込む。 息継ぎをする間も与えぬくらい、 何度も押し寄せてくる。 「たすけて」 喉から絞り出す、か細い声は 打ち付ける波に簡単に飲まれ、消えてしまう。 叫べ、叫べ、叫べ 飲まれているだけではダメなのだ。 波に揺られているだけではダメなのだ。 声を上げろ、高らかに! 「ここにいるぞ!」 喉が張り裂けるほど、叫ぶ。 奇異なものを見る目で見られるだろう。 指を指し笑う者もいるだろう。 けれど、きっと、その中には声を聞き、 視線を向けてくれる者だっているはずだ。 手を掴んでくれる者もいるだろう。 ちょっとの勇気で世界は変わる。 どこかで聞いた何かの、 キャッチフレーズのような言葉。 勇気と言ってしまえば、なんだかとても大きなもののように聞こえるから。 小心者の僕には遠い存在に思えるから。 僕はあえて、 こう言おう。 内に秘めたまま、沈黙し、 周りの波に流されてしまうのなら、 喚いてみろ!! みっともなくてもいい。 ブッサイクな、泣き顔を晒してでも、 伝える努力ってやつをしてみよう。 大多数が正義な訳じゃない。 僕の言葉が、誰かを動かすかもしれないと いうのなら、僕は喚く。 拙い言葉で、言葉の海に溺れながら、 時折、ぷかぷかと浮上して、馬鹿みたいに 足掻いてやる。 そして、いつかそれがどこかで燻り続ける 「小さな勇気を持った人達」を突き動かす、 何か、になるなら、僕はそれでいいのだと。 誰かの踏み台?上等じゃないか。 なーんて、何となく思った。 勇者にもヒーローにもなれなかった、 モブAの呟きだ。
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