欠片 ふたつ

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ポーチの中にはいつも飴が入っている。 転んで泣いてる小さな子を助けて、 笑顔で飴を差し出して、その子が笑顔になるのを見たいと思う、何ともお粗末なヒーロー願望。 実際は、誰も助けることなんて出来なくて、ポーチの飴を自分で消費しては足していく。 「…知らない人から飴渡されたとか、不審者扱いされないかな…」 腰の悪そうなお婆さんに勇気をだして声を絞り出し、譲ろうとしたバスの席。 「お兄さんの方が、具合悪そうだから気にしないで座ってて」 緊張のあまり、僕は顔が真っ青。 「…あ、すみません…」 しりすぼみ、消えるような僕の声。 ああ、恥ずかしい。 現代社会。 親切心は、綱渡り。
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