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回想 〜出逢い〜
あれは確か、よく晴れた日のことだった。
武家屋敷の立ち並ぶ通りを散歩していると、どうも不思議な形をした、見慣れないものが転がってきたんだ。
薄くて色とりどりの丸いものの上に細い管のようなものが通っているそれは、駒に似ているようで全く違う。
初めて見るものに心を奪われた俺は、それを拾って太陽の陽射しにかざしながら、覗き込んでみた。
すると、きらきらと光を集めて色とりどりに輝いて……。
今まで見たことがないほど綺麗だった。
でもこうやってずっと見ていたら、元の持ち主が困るかもしれない。
そう思ってこれが転がってきた方へと歩いて行った。
すると、周りよりも格別に大きくて、立派な屋敷が見えてくる。
その屋敷の塀をよく見ると子供が1人通れるくらいの小さな穴が空いていた。
きっとここから転がってきたんだな。
早く持ち主に届けよう。
そう思い、ちょっとした好奇心もあって、中に入ってみることにした。
四つん這いになって穴をくぐりぬけると、すぐ目の前に背の低い木が生い茂っている。
桜が終わったこの季節は、植物も青々と茂っていて気持ちがいい。
息を大きく吸い込むと、草花の青臭い匂いと、土の交じった匂いが鼻腔をくすぐる。
この匂い、意外と嫌いじゃないんだよなあ。
そう思いながら進んで行くと開けた庭に出た。
庭には木が沢山生えていて、池には鯉もいて……位の高い武家のお屋敷なんだろうということは想像に難くなかった。
そっとお屋敷の方に目をやると、1人の女の子の姿が見てとれた。5〜6歳位で俺と同じ歳だろうか、彼女は困ったように辺りを見渡している。
あぁ、これを無くしたのはきっとこの子だな。
持ち主が見つかってよかった。
そう思いながらゆっくりと茂みから出ると、女の子の方に近づき、声をかける。
「あのさ、君が探してるのはこれだろ?」
しかし、彼女は俺の声に反応せず、ずっと下を向いてきょろきょろとしている。
なんだ? 無視してんのか?
そう思って彼女の肩に手をかけた。
「なぁ、……」
すると彼女はびくりと身体を震わせ、振り向いた。
目には恐怖の色が映っている。
もしかして、この子も俺を怖がっているんだろうか。
やっぱり、俺なんかと話したくないよな……。
「急に話しかけてごめん。その、俺……これを渡したくて」
そう言って、拾ったそれをそっと差し出す。
すると、彼女は嬉しそうに微笑み、受け取ると、両手を合わせてお辞儀をした。
どうやら先程までの恐怖の色はもう見えない。
少し安心したが、何やら様子がおかしい。
「俺と、話すのは嫌?」
おずおずと尋ねるが、不思議そうに首を傾げられた。
訳が分からなくてぼんやりしていると、彼女は耳と口を指さし、指で小さくばつを作った。
そうか、彼女は耳が聞こえなくて話すことが出来ないのか……。
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