第1章:黒死病

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第1章:黒死病

ー14世紀 イタリア フィレンツェー 初夏の香りが漂い出す5月中旬。 バラやアイリスの花が咲き誇り自然界が いつもと変わらない四季折々の変化を 見せるなか、街は異様な静寂(せいじゃく)に包まれていた。 例年この時期になると市民や 遠方から訪れる行商人が街を行き交い 市場(いちば)が開かれる日になると 中心街は肩がぶつかる程に 人が溢れかえるのが見慣れた光景だった。 それがもう5年程見られていない。 カルロが歩いている大聖堂へ向かう この石畳の通り道も以前は参拝者で 大層な賑わいであった。 「まだ若いな…あっあそこにも鍛冶屋の前…」 カルロはそう(つぶや)き自分の足元に転がっている 死体に目を向けた。 彼の視界に入る範囲内で4人はいる。 皆一様に皮膚が内出血により紫黒色に 変色していた。 ー黒死病ー 後にペストと呼ばれるその伝染病は シチリア島で感染が始まってから 瞬く間にヨーロッパ全土へと広がり フィレンツェ人口の5分の3ほどが 亡くなる大惨事となった。 家の中で発病して亡くなった者は そのまま路上へ投げ捨てられて かつて花の都と(うた)われたフィレンツェは いつしか『(しかばね)の都』と呼ばれる様になっていた フィレンツェ中心街にあるサン・ピエロ大聖堂 今日カルロがここを訪れたのは昨日友人から 聞いた噂話を確めるためだった…
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