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第2章:死体を描く少女
■
ー昨日正午過ぎ フィレンツェ郊外にてー
「その少女が描く黒死病の屍は今にも
死者の呻き声が絵画から聞こえて来るかの様な
生々しさがあると専ら噂なのだよ」
チェス盤上からクイーンの駒を持ち上げた
ミゲルはそう言いながら自信ありげに
再び駒を置いた。
その様子を疑い深くカルロは眺めている。
フィレンツェ郊外にあるミゲル家の別荘庭園
市内の黒死病感染から逃れる為
ここ数ヶ月毎日の様にカルロは庭園に入り浸り
幼友達であるミゲルと共に暇を持て余している
酒場で下働きしていたカルロであったが
黒死病流行に伴い街を出歩く人々は減り
客足が遠退きフィレンツェ市内に訪れる際も
伝染病隔離政策として通行許可証が
必要になったお陰で
物質の確保さえもままならず
失意の内に酒場は店を閉める事となった。
収入は無く所持金も雀の涙しかないが
誰が生活を保証してくれる訳でもない。
先の見えない不安から明日は我が身と思い
せめて黒死病に感染して死ぬ前に好きな事を
して生きようと退廃的な考えで
毎日遊びながら暮らすのが彼らの様な
若者の風習であった。
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