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それは兄嫁である『人間』への挨拶を兼ねたちょっとした悪戯だ。
この世界で珍しい『人間』を召喚儀式で嫁に娶った兄は幸せそうで…その顔が何だか面白くなかったからだ。
昔っから兄は弟の俺や長兄に大事なものを奪われてばかりいた。
そのときの悔しそうな顔が見たくて欲しくもない兄の大事なものを奪っていたようなものだ。
兄の悔しそうな顔をみたら用済みであるモノは兄の目にとまらぬ場所へ行き捨てていた。
だから友人から聞いた嘘か本当か分からぬ『人間』の嗅覚が獣人より劣るという情報から俺が四つ足の黒い獣で会いに行ったら兄嫁である青年は気がつくのかというイタズラだった。
俺と兄は2足歩行のときは全然似てないのに四つ足の姿は非常に兄の姿に似ていて獣人達は匂いで俺と兄を嗅ぎ分けているからバレない自信はあったんだ。上手く騙せたなら、ちょっと困らせて兄から嫁を奪うのも面白いと思ったのだ。
事前にこの時間なら兄は留守にしていて嫁だけが家にいると長兄から情報をもらっていたので、兄の家近くで四つ足に変わり服を他の獣人に見つからないように隠して何食わぬ顔で兄の家へと走っていった。
前足でカリカリと扉を爪で引っかくと中からパタパタと足音がしてドアが開き青年が持っていたタオルで前足と後足を手際よく慣れたようすで拭って家へ迎え入れたのだった。
召喚儀式をした灰色の獣人たちと兄からこの青年が老人の姿で現れたと聞いたけれどシワなど無い顔は整っているし俺の足を拭ってるときに服の胸元から見えた体も20代の健康的な肌に見えた。
この近さで青年を見ることがなかった俺はジックリと観察して、兄と俺を間違えたことに気づいたときの驚いた顔を想像してワクワクするのだった。
まるで気づいてない青年にご飯まで用意され、獣の姿のままで食べ終えて彼の膝に乗っても怒りもしないのだった。
…召喚花嫁とはこんなものなのだろうか?
それとも『人間』とは伴侶の違いさえ分からぬ愚かな生き物なのか…ああ、そういえば友人は人間だけがする愛情表現があると言っていた。それを試そうと青年の顔に口を寄せえれば
「で、お前は俺になんの用なんだ?」
と青年の顔の前まで迫ってた俺の鼻先を手で掴み押しのけるように遠ざけたのだった。
!!!
俺が驚いて青年の膝からおりると
「呆れたヤツだな、バレないとでも思ったのか?全然似てないだろ。」
と青年らしくない冷たい声と侮蔑の表情をうかべて俺を見ているのだった。
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