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六月中旬、大雨の中、俺はお墓参りにきていた。
傘もささず彼女の好きだった真っ赤なバラの花束を抱え墓の前までくると、そっと墓石の上に置いた。
もう、十年になる。
彼女が死んで、いや、殺されてから。
墓の前で正座をし、膝が濡れるのを気にもせず目を閉じて手をあわせる。
ここにくるたび、彼女を守れなかったこと、側にいてあげられなかったことを悔やまずにはいられない。
何故、彼女は死んだのか。
その原因は何だったのか。
今更聞こうとしても、彼女はもうここにはいないのだ。
残ったのは、彼女と俺を繋ぐ唯一無二の存在であるもうすぐ二十歳になる娘だけだ。
今は一人暮らしをして一緒には住んでおらず、墓参りも一緒に行かなくなった。
しかし、墓の前にはすでに娘が先にきたであろうバラの花束が添えてあった。
先ほど自分が置いたバラの花束よりも何故か綺麗で自分のは枯れているようにみえた。
拝み終えて一通りそうじをした後、俺はまた手をあわせてから大雨の中を歩き始めた。
その瞬間、どこかで雷が落ちた音がしたかと思えば一層雨が激しくなった。
それはまるで彼女の訴えのように感じた。
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