バラの花束を

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 ずぶ濡れのまま家に帰れば、また郵便受けには実家からの手紙が入っており、それを取り出すとすぐに破ってゴミ箱に捨てた。 内容はいつも同じで、一度帰ってこいというものだ。 両親とは彼女が死んでお葬式会場で会った以来、電話すらしていない。 彼女が生きている頃は、特に娘が生まれたときは頻繁に帰省していた。 といっても、俺は仕事を優先し、彼女と娘を実家に送るとすぐに仕事へと向かった。 彼女は何度も、一緒に娘の面倒を見てほしいと頼んできたが、俺は仕事だからと言って彼女と実家の両親に娘の世話を任せきりだった。 おかげで娘とは疎遠になっている。 ただ年に一回、彼女の命日は、俺のところに尋ねてきて勝手に晩御飯をつくり、一緒に食べることだけはずっと続いている。 お互い何を話すわけでもない。 その日だけ娘はふらっときて、彼女と同じ味付けの味噌汁をつくり食べて帰っていくのだ。 その行動も疑問を感じるが、それ以上に気になることがある。 それは俺に対する娘の視線だ。 基本娘は俺の方を見ない。 だが、ふとじっと俺を見ていることがある。 その視線には、何故か哀れみを感じるのだ。 可哀そうな人、というような目で。 その中に含まれる、憎いという目で。
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