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「あのなあ……そもそもユリの花言葉は知っているのか?」
「もちろんだよ。ここの主人が花言葉が好きだからね、教えてもらったんだ」
「まて、おまえここの店員と話せるのか……!?」
「現に君とも話しているじゃないか」
「そ、そうだけどさ……」
この花が幻覚の説は消えた。そして少し期待していた、自分は生まれつき植物の声が聞こえる特別な人間であるという線も消える。ぼくの中にやるせなさがつのった。
ユリはそんなぼくのことを全く気にしていない。
「たしか、私が知る限りは「純粋」「無垢」「威厳」これがユリ全体に言える花言葉だそうだ」
「悪いイメージの言葉はないんだな……」
「当たり前だろう。私の品種だぞ。花言葉に傲慢なんてもってのほかだ!」
このユリはいったいどこからここまでの自信がわいてくるのか。ぼくはそこだけは見習った方がいい気がした。
「どうだろう。一緒にこれらから私の花言葉を考えてはくれないか?」
「ぼくは、そんなヒマじゃ……」
「平日の昼間っから花屋に来て迷子になっている人間がヒマじゃないって?」
図星をつかれた。逆にそれが腹立ってぼくは反論する。
「大体ぼくらで勝手にそんなことをして、許されるわけがないだろ」
「いいじゃないか。そもそも花言葉なんて不確定なものなんだから。こんな花屋でのたわむれをとがめる者などいないよ」
「それにぼくには花言葉なんているとは思えないな」
「いるさ、君も自分を称する言葉がほしいだろう」
ユリの同調を求める言葉。そしてそれに対抗しようとぼくの口から出てきたものに自分でも驚いてしまう。
「ぼくには山鳥二方って名前があるんだぞ」
「それはそれは。珍しいお名前だね。どんな意味なんだい?」
この話題を振られるのには、なれている。それでも、どうしようもなくため息をついてしまう。
「……ぼくは次男なんだ」
「それで?」
「だから、二人目で二方」
青いユリは困惑していた。名前とか言葉なんて、そんなもんだぞという目を向ける。
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