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ぼくは完全に迷子になってしまった。でも、こんなあの世みたいな空間に居られるのなら戻れなくなったって構わないかな。
そうやって自暴自棄になっていると、ベンチを見つけた。そこについている花びらを手ではらってその場にすわる。
頭上には青いユリが生えていた。キレイだなと見つめる。
「君はずいぶんと疲れているようだね」
すると花が、ぼくに語りかけた。
「ウ゛ェっ!?」
一瞬自分でも信じられない声をだしておどろいてしまったが、きっとぼくは迷子になってパニックを起こしているんだ。それで幻覚が見えた。それだけだ。そう思い込もうとしても花はやめない。
「私は青いユリ。花言葉はまだない」
聞こえないふりを押しとおす。幻覚に声を返せばいよいよ終わりだ……
「君は青いユリに興味はないのかい?」
あるよ。話すユリなんてなおさらだ。でも返事はぜったいにしてはいけない。花は小ばかにしたように笑う。
「もしかして、青いユリが普通だと思っている人間か! なるほど、切り身がそのまま泳いでいると思い込んでいるタイプなんだね!」
その言葉に思わず怒って立ち上がる。なぜならぼくは、たしかに切り身が泳いでいると思っていた子供だったからだ。でも、それ以上に無知をバカにするなんて許せない!
「やい、この花! さっきから聞いていれば何なんだ! ぼくは一応生物系なんだぞ! 青いユリがバラと同じで品種改良からできたなんて知ってるよ!」
ユリは今度はやさしく笑った。いや、笑ったかどうかは知らない。どんな風に声が出てどんな表情なのか分からない。ただ青いユリの声がそんなイメージだったから、笑ったと称した。
「やっと返してくれたね。花の品種改良方法なんかより、人に話しかけられたら無視しちゃいけませんということを学び直すべきだな」
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