後編

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柚希と映画に行く約束をした。 彼が好きな作家の本を原作とした映画。柚希がずっと見たがっていたものだ。 僕の授業終わりに待ち合わせをする。午前中に授業を終えていた柚希は図書館で時間をつぶしていると言っていた。僕は授業が終わるとすぐに図書館へと向かう。 そこに見知った顔を見つけ僕は少し警戒した。 「どうかしたの?涼真?」 内情を探るようにそう尋ね、こんな場所にいる涼真に心中嫌な予感がした。涼真のことだ、本を借りる目的でないことだけは確かだ。 涼真の用事が柚希ではないことを祈った。柚希にだけは合わせたくないと思った。この場所からなんとしても涼真を遠ざけたい。そんなことを考えているところに運悪く柚希が図書館から出てくる。 柚希に駆け寄った涼真は勝手な言い分で別れ話を切り出した。自分が図ったこととはいえ、今まで散々柚希を利用し蔑ろにきてきたくせに、今度は他に好きな人ができたから別れてほしいなんて、あまりに勝手すぎる。柚希の代わりに殴り飛ばしてやろうかとさえ思った。けれど俺より苦しいはずの柚希がそれをしないで我慢している。俺は握り込んだ拳をぐっと抑えた。 涼真の新たな恋の後押しをして、柚希は僕を振り返った。僕は堪らず柚希の名を呼び抱きしめる。 「俺、失恋したんだな」 柚希のその言葉に堪らない気持ちになる。涼真が許せなくなりそうだ。 「長かった」 ぽつりと柚希はつぶやく。柚希は涼真との関係を望みながらも、いつかこんな日が来ることを一番理解し、覚悟していたのかもしれない。僕は柚希の言葉を黙って聞いた。 「もっと苦しいと思ったのに。思ったより平気そうだ」 強がっているんだろうか、我慢しているんだろうか。僕の前では強がってほしくない、我慢なんてしてほしくないのに。無意識に回した腕に力がこもった。 「涼真といい、お前といい、どうして俺より泣きそうな顔をするんだ」 呆れた声がする。顔色を窺うように腕を緩めて柚希の顔を覗き込む。柚希も僕を見上げて僕の顔を見て笑う。 「俺は大丈夫だ」 僕を信じさせるように、はっきりと、柚希はもう一度今度は涼真ではなく僕にむけてそう伝える。そして、少し躊躇してその後少し恥ずかしそうにつづけた。 「だって、凪人が傍にいてくれるんだろう」 その一言に泣きそうになる。先ほどまでの悲しいものとは違う嬉しくて熱い感情がこみ上げる。
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