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僕はその言葉を肯定するように何度もうなずく。
「傍にいる、ずっと傍にいる」
僕の言葉に柚希は嬉しそうに笑って、俺の背に腕を回す。
「きっと俺一人だったら耐えられなかった」
ありがとう、少し恥ずかしそうに柚希は僕に礼を言う。
そんな柚希にきゅんとする。胸の辺りがざわめいて、堪らず言葉が口に出る。
「好き、好きだよ、今すぐに答えを出せなくてもいい。君が僕を同じように好きになれなくてもいい。僕は君のそばにいたい」
つけこんでいると分かっている。それでも伝えずにはいられない。
柚希は俺の言葉に少し驚いた表情をみせ、その後申し訳なさそうに答えた。
「すぐには答えられそうにない。すがるような形で安易に答えは出したくないから。少し整理する時間がほしい」
「うん」
柚希らしい誠実な答えだと思わず微笑む。ゆっくりでいい、少しずつ好きになってくれたらいい。「でも」ふいに続く逆接に僕は首をかしげる。
「凪人の傍にはいたい」
思わず目を見開いた。幻聴かと思った。こんな展開誰が期待しただろう。
「悪い、俺すごく勝手なこと言ってるよな」
ばつが悪そうに僕から離れようとする柚希の体を逃がさないとばかりにさらに強く拘束する。
「勝手なこと言ってよ、我が儘言ってよ」
そんなことを言われて嬉しくないわけがない。ずっと我慢してきた柚希がその言葉を言うことにどれだけの勇気が必要だったのか、もしかしたら無意識にこぼれてしまったのかもしれない。
それを言わせてるいるのが自分であることに堪らない優越感と喜びを感じるのだ。
すべて叶えてあげたいと思ってしまうほど柚希の我が儘がどれほど貴重なものか、僕以上に理解できる人はいない。だからこそ早く僕を好きになってくれたらいいと思う。
「お前は俺を甘やかしすぎだ」
照れたようにそんな悪態をついて、それでも嬉しくて堪らないといった様子で俺の胸に顔を埋める柚希が可愛い。こんなに可愛い柚希が見られるならいくらでも甘やかすにきまってる。僕は柚希の頭を髪をすくようにそっと撫でた。
いつか真実を話さなければならないだろう。
僕が柚希と涼真を別れさせようと画策したことは事実であり、許されることじゃない。
柚希はきっと怒るだろう。僕を軽蔑するかもしれない。それでも誠実な柚希の前では自分も誠実でありたいと思うのだ。
でも今はただこの幸せを噛み締めていたい。卑怯で臆病な僕をどうか許してほしい。
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