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寝る準備をしていると涼真からの連絡がきて俺は舞い上がる。
涼真との連絡は基本一方通行だ。というのも、俺が私情で涼真に連絡を取っても滅多に返っては来ないから。多くは涼真が俺に必要最低限の連絡をして、俺がそれに了承してやり取りは終わる。
今回は明日提出のレポート課題の代筆だった。当然涼真とは離れた席だが、基本俺は涼真と同じ授業を受けているため頼まれたレポートに苦戦することはない。気を付けることと言えば自分のレポートと内容が被らないようにすることくらいだ。
しかし文量が文量であり時間も時間であったためさすがに前日までには終わらず、当日の昼休みまでにはなんとか完成させ涼真のもとに届けると約束する。
課題が終わったのは次の日の朝、少しばかりの仮眠をとり俺は学校へ向かう。
昼休みは大抵友人と食堂で昼ご飯を食べているはずだ。俺はきょろきょろと食堂を見回す。すぐに涼真のいるグループを見つけて俺は涼真の元へと足を進める。その中にはつい先日顔を合わせた瀬田川もいたが、時間にすれば僅か数分、なおかつ俯いていた俺のことなど覚えてはいないだろう。
いつもの顔なじみの涼真を含めた四人、そこにもう一人見知らぬ男がいた。
涼真が肩を抱く彼が噂の「本命」なのだろうか。愛くるしい顔立ちをしていた。ころころと笑う笑顔が無意識に目を惹く。勝ち目などないと突き付けられているようだ。
「涼真」
俺が名を呼べば、「恋人」であるはずの男は俺を視界に映す。その視線は変わらない、高校のころから何も変わらず、冷めきっている。
変わらないでほしいと願っていた。けれど、涼真が隣に座る彼を映す視線を、視線にこめられた熱量を俺は見てしまった。知ってしまった。涼真の目は明らかに「恋をしている」と物語る。どれだけ俺が尽くしても欲しても向けられなかったその視線と感情は惜しみなくただ一人に向けられている。
「サンキュー」
いつものように涼真は俺から課題を受け取って、すぐにグループの輪に戻る。いつもはその一言で十分だったのに。満たされていたのに。言い様のない不安にめまいがする。寝不足のせいかもしれない。
けれどここで倒れるわけにもいかない。なんとか自身の体に鞭を打ってふらふらと食堂を後にする。午後の授業はあるが今日は帰ろう。精神的にも身体的にも限界だった。
ふいに後ろから近づいてくる足音に思わず振り返る。涼真であることを期待した。彼が追いかけてきてくれたのだと歓喜した。
「顔色がよくないね、送っていくよ」
そこに立っていたのは想い人ではなかった。けれどどこかで納得している。涼真であるわけがないと分かっていた。
見上げた先にはつい先日と同じように一人の男が立っている。俺の意識はそこで途切れた。
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