終わっている男

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終わっている男

誠一は横山に心の内をすべて曝け出したかった。 でも8時まであと10分しかない。 「もうそろそろだな」 誠一が言うと、横山は「別の日に変えてもらった」とあっさり答えた。 それが本当かどうかは分からない。 ただ誠一はそれで横山に全て話すことに決めた。 誠一は酒を飲んでいたが、酔ってはいなかった。 だからうまく伝えられなかったとしたら、それは横山が酔っていたからか、誠一が伝えるのが下手だったかのどちらかしかなかった。 祥子が離婚を考えていることを知ってしまったこと、ハジメとしてメールで祥子とやりとりしたこと、最近、祥子に問い詰められたこと等、祥子との不調和で思い当たることは全て話した。 一通り、誠一が話すと、横山は神妙な顔つきで誠一を見た。 「まだ終わったわけじゃない」 誠一は何を言われているかすぐには分からなかった。 横山曰く、まだハジメは終わっていないというのだった。 誠一は終わっているとでもいいたいのか。 分かっているような口の利き方をする。 誠一は横山の言うことを真に受けていなかった。 祥子のことはよく知っている。 少なくとも、横山よりは知っているはずだった。 納得はしていなかったが、どういうことか話は聞こうとは思った。 まず横山が言うところによれば、今の誠一が当時の横山と瓜二つなのだそうだ。 横山からしてみれば、誠一が今どんな状態で、どんな顔して、ご飯を食べているかさえも想像できてしまうというのだ。 それを聞いた誠一は呆れていた。 馬鹿にするのもいい加減にしろ。 そう心の中では思っていたが、口には出さなかった。 横山が言うことを全く信じていなかったが言わせておいた。 信じていなかったが、横山が何を言うか少しは興味があったからだ。 ある意味、この男は結末を迎えてしまったのだ。 話を聞いてやるだけの価値はあると思った。 「ただ考えがある」 どうせ大したこと言わないとは思っていたが、一応最後まで話は聞こうと思った。 誠一は腕時計を見た。 時間は8時半になっていた。 「ハジメを会わせてみないか?」 話が唐突過ぎて、何を言われているかすぐには分からなかった。 横山は、ハジメを祥子に会わせてみようと提案しているのだった。 横山が言うには、ハジメには希望があると言った。 ハジメを通じて、祥子との仲を深め、祥子のことを知り、最後にハジメは実は誠一だったと言えばいいというのだ。 祥子にとって幻滅されてしまっている誠一にはできないが、ハジメであれば、まだ可能性はあるとのこと。 でもどうやって? 横山は横山がハジメを演じると言った。 誠一は反対だった。 横山は何を考えているのか分からなかった。 それをする横山のメリットは何なんだ? 誠一が黙っていると、横山は聞いてもいないのに答えた。 「他人事のように思えないんだ」 横山は、誠一のことをじっと見つめた。 誠一は横山から、目を逸らした。 この男は急に慈善活動でも始める気にでもなったのだろうか。 誠一はこの時点では、まだ反対だったのだ。
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