大丈夫

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横山から返ってきた言葉は意外なものだった。 「祥子さんはたぶんサチじゃないと思います」 どういうことだ。 結局、横山はあれから誠一からの電話に出ることはなく、そのまま祥子に会ったようだった。 それだけでも許せないところだったが、さらに横山からの言葉に混乱した。 そんなことあるはずがない。 「ブログは祥子さんのブログではなくて、他の人のブログだったんじゃないですか?」 そんなこと、誰が信じるか。 でももしそれが勘違いだったとしたら、あらゆる違和感が解消されるような感じはあった。 あれは別人のような祥子じゃなくて、本当に全く別人だったのだ。 でも、なんで祥子はあんなブログを見ていたのだろうか。 誠一はまた新たな疑問が湧いてきていた。 家に帰ると、祥子がいた。 なんとなく誠一は祥子に聞いてみたいことがあった。 「なんでプレシャスが見たかったんだ?」 「どうしたの」 祥子は答えたくないようだったが、誠一が珍しく真剣だったため、仕方なく答えた。 「あの最低な母親よりは自分はマシだって思いたくなる時がある」 「何かあったのか?」 「大丈夫」 そう気丈に振る舞う姿は、やはり祥子らしかった。 祥子はいつもそうだった。 きっと娘と何かあったのだろう。 でももしそのことで何か相談されたとしても誠一は力になれる自信がなかった。 正直、誠一は娘である幸恵のことが苦手であった。 というよりも、誠一は幸恵に好かれていないと思っていた。 それはあからさまに態度に出るわけではないが、幸恵は今まで一切の大事なことを誠一に相談したことはなかった。 娘と父親の関係なんて、そういうものだとも思えたが、誠一は幸恵との関係にただならぬものを感じていた。 幸恵は分かりやすい性格だったが、同時に分かりやすく物事を解釈する質だった。 そんな幸恵にとって誠一と祥子の関係は、傲慢な夫に振り回される妻でしかなかったのだろう。 誠一は、幸恵が誰よりも母親である祥子を愛し、そしてその愛ゆえに誠一のことを憎んでいると思っていた。 祥子をちゃんと見るのは久しぶりだったからだろうか。 気丈に振る舞う祥子が無理をしているようにしか見えなかった。 そこには年相応に年を取り、少しくたびれた感じの背格好をした初老の女がいた。 誠一にとってはそのどれも愛着があったが、その祥子の姿は老いに逆らえないことを思い出させ、寂しさを感じた。 本当に大丈夫なんだろうか。 そうは思っているだけで、やはり誠一は思いやりのある言葉を掛けることはできなかった。
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