答えになっていない答え

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答えになっていない答え

いったいどういうことなんだろう。 誠一は本当は祥子が知っていることを何も知らないんだろうということが分かった。 その場合、どこからどう聞けばいいのだろうか。 誠一は質問したかったが、どこからどう質問をすればいいのか分からなかった。 祥子は大きく息を吸って吐いた。 これで気持ちを切り替えたのだろうか。 誠一は率直に聞くしかないと思った。 「どういうこと?」 祥子は誠一の発言が何に対してどう聞いているのか分からないようだった。 しばらく誠一のことを眺めていた。 「どういうことって?」 「いや、なんでもない」 誠一は急に怖くなって、誤魔化そうとした。 「幸恵が離婚すること知らないの?」 「ああ」 誠一は何か悪いことでも白状するような気分だった。 たぶん分かっていないのはそれだけではない。 知らないのは、幸恵が誠一に一切話さなかったという、幸恵の誠一に対する信用のなさの表れだった。 「何も聞いてこないから、全部知っているのだと思っていた」 買い被りすぎだ。 祥子には誠一のことを買い被り過ぎているところがあった。 でも誠一は悪い気はしなかった。 どちらかというとその祥子の期待に応えたいとも思っていた。 あまりしゃべらないせいもあってか、祥子は誠一が本当は知っているけれども、黙って見守ってくれていると勝手に勘違いしていた。 「もしかして幸恵が離婚する理由も知らないってこと?」 何も答えない誠一を見て、祥子は誠一が本当に何も知らないのだとやっとわかったようだった。 「まさか、今日私がここに来た理由も?」 誠一はそれが一番知りたかった。 でも何も知らないだけなのに、責められるように聞かれるのはあまりいい気分ではなかった。 誠一は何も答えず黙っていた。 祥子はそれ以上何も喋ることはしなかった。 「なあ」 誠一は不器用な言い方しかできない。 それも祥子は知っていた。 「何で俺はここにいるんだ?」 祥子は目を丸くして、誠一を見た。 「それは私があなたに聞きたい」 祥子の答えは答えているようで何も答えていないのであった。
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