陰謀

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陰謀

「横山は何なんだ?」 「あの人は化粧品販売の人だと思っていた」 「違うだろ」 「うん」 二人は考え込むように沈黙した。 「この前3人で会った時は何を話したんだ?」 「え?」 「いたんだ」 祥子は黙った。 構わず誠一は答えを待った。 「幸恵の相談を聞いていたの」 「それだけ?」 「そう」 「何で横山がいたんだ?」 「私も幸恵から相談があるって聞いた時は横山さんもいるなんて知らなかったの。あの時は知り合いだって話してくれたけど」 誠一は急に腹が立ってきた。 「君は人が良すぎるんだ」 でも責める相手は完全に間違っていた。 「幸恵は何を考えているんだろう」 今度は幸恵が自分を責め始めた。 「私は浮気くらいで別れるなんてって言っちゃったの。全然幸恵の話を聞いてあげられなかったから」 誠一はただしゃべり続ける幸恵を見ていた。 「本当は私にただ辛い気持ちを知ってもらいたかっただけなんだと思う。それにも関わらず私は自分の意見ばかり押し付けちゃって」 二人は黙った。 小声で話していたのがだんだん興奮して声が大きくなっていったのが分かった。 小さい店内に二人の会話は聞きたくなくても響いていただろう。 「店を出よう」 誠一はそう祥子に言った。 しばらく表参道の道を歩いていた。 二人とも何も話さなかった。 「大丈夫だ」 誠一は無責任に祥子にそう話しかけていた。 でも誠一はもう誠一の中の問題は解決したような気がしていた。 祥子はやっぱり誠一が信じていた通りだった。 誠一はそれだけでもう満足していた。 誠一はたとえ幸恵が誠一と祥子の仲違いをさせようとしていたとしても、祥子との仲なら大丈夫だと思った。 それくらいその時は二人の関係を信じていたのだった。
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