魔王だってほくそ笑む

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 今日も今日とて魔王ガルデリカの後ろを着いて回る俺は、健気だと思う。  特に報酬があるわけじゃないし。  ガルのかくれんぼはまだ続いているけれど、もうめんどくさいから探さなくなった。そうすれば寂しくなったガルが自ら出頭してくる。  そこをとっ捕まえればいいのだと気付いたのだ。  まぁ、ガルが留守にしてる間に部屋の大掃除ができるし、何日か留守にした後は言う通りに風呂に入ってくれるし、これでいいんだと思ってる。  そして俺にも自由な時間が出来たことで、子供たちを預かってみたりロティに教わって編み物をしてみたり、クロトワーレと一緒に中庭の管理の手伝いをしたりしてる。  俺だけの何かを見つけないと、ここは平和で暇で、本当は魔物が多発してるとか魔族の数が増えていて討伐隊が出てるという事を忘れそうになる。  本来なら俺だって一応『魔王軍』と呼ばれる塊の一端にいるのだから剣の腕をみがいたり、せっかく使えるのだから魔法の練習でもしたらいいのに、俺は未だにガルの部屋の掃除しかしていない。  それだって大事な事だし、ガルも特に俺に何かをしろとは言わない。 『シルベールは黙って私に愛でられていればいいんだよ』  それはガルが前の生の時に愛した相手への恋慕を勘違いしたものじゃないのか。  だって俺は何も覚えてないんだ。  ガルが気に入ってるのは、俺じゃないんだと思う。だってガルは俺を見てるようで見てないから。
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