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「――あの日、父さんに何をしたの」
姉の動きが止まる。
「何が何だか分からなくて怖くて、ずっと忘れたふりしてたけど。でも父さんがあんなに取り乱すのなんてあの時初めてみたんだ」
中学二年の夏、終業式を終えて学校から帰ると、家中の物が床に散らばっていた。花瓶は割れ、飾っていた家族写真は真っ二つに破られていた。父の叫び声が聞こえ部屋に行くと包丁を持って姉に襲い掛かろうとする父の姿があった。
「部屋に行かなくても思い出しちゃったのね、ゆうくんはお父さんが大好きだったわね」
「はぐらかさないでくれ」
慌てて姉をかばうと父は、どけどいてくれと姉と俺を離そうとした。
――このままだとお前まで。もっと早くやっとくべきだった。親としての責任だ。
――どういうこと、姉ちゃんだって家族だろ。今まで一緒に楽しく暮らしてきたじゃんか。
――お前は、騙されてるんだ。
思い出したくもなかった記憶に後頭部を殴られたように頭が痛む。あの時ちらりと振り返って見た姉の顔はいつも通り微笑んでいたが目だけまったく動いていなかった。
「そうね、ゆうくんがいなかったら私はもっと愛されたのかって聞いたわ」
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