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――守らなくてもいいのよ、ゆうくん。私は、変われないから。
「な、んで」
「別に本気じゃなかった、冗談だったのよ。でもなんだか息が苦しくて。もう何年も父は私のことを見てくれなくて寂しくて、ずっと体の中を冷たい風が循環していて肺が凍てつきそうだった。気の引き方なんか分からなかった。だから、言ってしまったの。いなくなったら愛してくれるのって。そしたらお父さん怒っちゃって」
背筋が凍り付く。過去の記憶は次第に鮮明になっていく。
それから俺はどうしたんだっけ。父さんの包丁をなんとか奪って、でも散らばっていた本に躓いてしまってそれで――。
「そうだ、俺が父さんを」
「強盗よ。あの日部屋中散らかってたでしょ。強盗がお父さんを殺したのよ。警察だってそう処理したじゃない」
手が真っ赤に染まった。動転する頭で救急車、と思った。心臓がある位置に深々と刺してしまったがまだ父の息はあった。携帯電話を取り出してかけようとしたがぬるぬるしてうまく握れなかった。姉の手が俺の腕を掴む。大丈夫、大丈夫だから。そう姉は言って俺を抱きしめた。何を言っているのか分からなかった。
――お姉ちゃんがなんとかしてあげるから。
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