執着

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 遠くで蝉の鳴き声が聞こえる。ぼんやりと昔の記憶が断面的に蘇ったのは、この暑さとこれから会いにいく姉のことを無意識に考えていたからかもしれない。  駅から歩いて三十分、目的地までもうそろそろだが、あいにくの炎天下に眩暈がひどくなってくる。喉を潤したいのに近くに自販機はなく駄菓子屋の看板だけ目についた。  暖簾のかかった戸をスライドさせて開くと、垂れ下がった婆さんの腫れぼったい目と目が合う。腰は曲がっていて何か食べているのか口はもごもごと動いている。後ろのふすまの奥からは小さくテレビの声が聞こえた。  あ、あんた。婆さんは驚いたように重たそうな瞼を精いっぱい開けた後、中に入りんしゃいと言った。中を見渡すと、客は一人もいなかった。 「この辺は子どもがすっかりいなくなってな。客もめったに来いひん。あんたみたいなのでも、有難いことじゃ」  駄菓子屋の婆さんは小ぶりのアイスクリームショーケースからアイスキャンディーを二本取ってくると俺に一本くれた。ミルク味だった。お金を払うというが、いいと断られた。襖の奥の部屋で一緒にアイスキャンディーをほおばる。目的地までは急いでない、それにのどを潤すものを買う目的でここには入ったのだ。  
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