執着

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   そういえば子供のころはこんな暑い日には姉とよくミルクキャンディーを食べたな。  そんなことを思い出していると、あんたも難儀だなぁ、と婆さんはいった。ミルクの濃い水分を口の中で堪能しながら腫れぼったい目をみる。 「こんな日差しが強い日に来んでも、なんかこの時期に用でもあるんかい」  用と言われると、はっきりと返事ができない。  所持金がそこをついて、金をせびりにいくのだとは到底言えなかった。  バイト先にクビをいい渡されたのがつい先日だ。毎年なぜかこの時期にもう来ないでくれと言い渡されるのだ。貯金もなくぎりぎりの生活をしているから次のバイト先が決まるまでの生活費がたりない。何か困ったことがあったらおいでと姉には言われていたのだ。 「姉がこの近くに住んでいるんです」 「はあ、あの坂の上になあ」 「坂の上?」  聞き返すと婆さんは変なものでも見るような顔をして口をすぼめた。
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