執着

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 姉の家は駄菓子屋の婆さんが言った通り、トオリザカという名称のところどころ塗装が剥がれている不格好な坂の上にあった。持っている住所の案内にも書いてあったし間違いはない。坂の上の白い屋根の家だ。  インターホンはなく、ドアを押すとあっさりと開いた。  玄関の正面に階段があり、右側奥がリビングのようだった。姉が慌ててこちらにかけてきた。 「おかえりなさい」  白い長そでのブラウスに深い紺色のロングスカートを穿いている。 「おかえりなさいって、今日初めて来たんだけど」 「ここはあなたのおうちでもあるもの」  ふふっと微笑みながら姉はリビングへ案内してくれた。出された冷たいお茶を飲みながら部屋の中を見渡す。  不自然なほどに何もない。あるのはいま座っているソファーとテーブルだけ。 「なにもなくて驚いたでしょ」  長い前髪の下の真っ黒な瞳と目が合った。父にそっくりな切れ長の眼だ。 「おばさんがいた頃はまだいろいろあったんだけど、いらなくなっちゃったから、さ」 あんなに外は暑かったのに、いつのまにか汗はすっかりひいていた。
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