執着

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「今はいないの?」 「仕事の関係で違うところに住んでる。お義母さんの具合はどう、おばあちゃんに任せっきりじゃなくてちゃんと顔見せに行ってる?」 「ちゃんと行ってるよ、母さんも最近はずっと調子いいみたい。姉ちゃんの方こそ、いい加減母さんに会いに行ってよ」 「私は――いけない」  カラン。溶けているように見えないグラスの中の氷が傾く。 「私が行ったら、お義母さんの具合悪くなっちゃうわ」  おどけていう姉にそんなことない、と否定したかったが喉元までせり上がってきた言葉を俺は飲み込んでしまった。  父が亡くなって数か月経ったある日、母と二人で父の墓参りに行った時にすれ違ったことがあった。まるで他人のようだった。俺は姉に声をかけようとしたが母の尋常ではない怯えぶりにそのまま一緒に立ち尽くした。  俺と姉は、母親が違う。姉は父親の連れ子で五歳の時に今の母と再婚したらしい。それから俺が生まれた。父が亡くなってから母は憔悴しきって精神を病んでしまった。子供二人は育てられないということで姉だけ父の妹の所に預けられた。
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