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「二階には何があるの」
「――部屋。お父さんと私の、部屋があるわ」
「なんで父さんの部屋が――」
姉の表情が曇る。
「ただの、部屋よ」
玉を避けながら俺は階段に足をかけた。
――お前は、騙されてる。
低い声だった。慌てて足を下した。父の声だった。どこかで聞いた、胸がざわつく。
「見ないほうがいい、あまり良いものではないもの。それよりも楽しい話をしましょ」
姉は床に散らばっている玉を足でどけながら近づいてきた。
「ゆうくんとの思い出は楽しいことがいっぱいだわ。例えば、運動会。お父さんたち仕事で来れなくなった時があったよね。ちょっと寂しそうだったけど、かけっこで一位になった時、私に向かってぶんぶん手を振ってくれた時嬉しかったな」
「それは、姉ちゃんが他の親に負けないくらい大きな声で応援してくれてたから」
――俺は、あいつが怖いんだ。
これは夜、トイレに起きて両親の寝室を通った時に聞いた言葉。
――四歳の時可愛がってた猫が亡くなって、そのときあいつは。
なんで今こんなことを思い出すんだろう。
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