執着

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「あとは、夏祭りに浴衣を着て一緒に夜店みてまわったの楽しかったね。ゆうくん金魚すくいすごく上手でいっぱいとれてすごかったな」  姉は楽しそうに笑っていた。  ――ごみ箱に捨てたんだ。  少しずつ思い出そうともしていなかった記憶が蘇ってくる。  あの時の金魚は毎日俺が水を替えて大事に飼っていた。朝早くから野球部の朝練があって姉に水替えを頼んだ時があった。その日帰ってきたら金魚はいなくて、姉はごめんなさいと泣きながら俺に謝った。目をはなしたすきに猫に食べられてしまったと、姉は言っていた。 「ミルク味のアイスキャンディーはまだ好き? 夏になるとお父さんがいっぱい買ってきてくれたね。私が小さいときもずっとお父さん同じの買ってきてくれたんだよ。子どもはミルク味が好きだと思いこんでたんだろうね。ほんとは私ミルク味ってあまり好きじゃなかったんだけどお父さんがくれるあれだけは私も好きだったな」  いつの頃か、父は姉に対して無関心を装うようになっていた。呼ばれれば反応はするがそれ以上のことはしない。今思うと怯えによるものだったのかもしれない。  それがあの日、父が死んだ日だけ違った。  お金をもらって帰ったらいいだけの話なのに余計なことばかり気になってしまう。
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