一.研究所へ

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「西側と南側は研究区、東側は居住区となっています」  円形になったメインホールの中央に立ち、イオロスは東西南に伸びる三つの通路をそれぞれ指差す。  けれど、メインホールから伸びる通路は全部で四つあった。 「では……北側は?」  気になって尋ねる。 「——あとでお連れします。まずは居住区を案内しましょう」  そうほほえんだイオロスの顔には、どこか暗い影があった。  もしかして。  とある予感が頭をよぎって、エヒテの鼓動を早くした。  北に伸びる長い廊下をじっと見つめる。  ここは化石龍の一体である〈風の龍〉の研究所。ならば——ウィネトアが、いるはずだ。  どきどきと鼓動が早くなる。化石龍に会うために、ようやくここまで来たのだから。 「エヒテさん?」  はっと振り返る。イオロスは東の通路をすでに進んでいた。 「す、すみません!」  エヒテは慌ててザイと一緒にイオロスを追いかけた。  東側の居住区は、二つの空間に分かれていた。それぞれの寝室と、キッチンのついた食堂だ。寝室は三部屋しかなく、どれも空き部屋のようだった。 「この部屋を使ってください」  と、イオロスが適当な部屋の扉を開けた。  中に入り、エヒテは目を見張った。その部屋は人と龍が同時に滞在できるほど広い。  てっきりザイとは別の部屋になると思っていたけれど、なんだか安心した。そして、メインホールほどではないものの、大きな天窓がついていて開放感があった。  しかし——さきほどから気にはなっていたが、この研究所に、イオロスとエヒテ以外の人の気配はない。寝室も、エヒテが来るまでは全て空き部屋だった。 「あの……ここには、他の研究員の方はいないんですか?」  イオロスが頷く。 「ええ。ここは、他の五つの化石龍研究所とは、すこし違うんです」 「違う……というのは……?」  漆黒の瞳がすっと細くなる。 「まずは荷物をおろして、すこし休んでください。随分疲れているでしょう。なんせ——空から飛び降りたんですから」  イオロスの言葉にエヒテははっと息を飲んだ。同時に、なんだか顔が熱くなる。あの行動を見られていたとは。 「ご、ご存知だったんですか」 「ええ、見ていてかなり緊張しました。いつもあんな無茶を?」  イオロスが心配そうにエヒテの顔をのぞきこむ。エヒテはぶんぶんと首を横に振った。 「無茶、というか、あの時はああする以外考えつかなくて、ですね……」  今思えば無謀すぎる賭けだ。ザイが優秀だからよかったものの、一歩間違えれば確実に死体になっていた。
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