一.研究所へ

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 猛烈な突風に襲われ、エヒテは上空でぎゅっと歯を食いしばった。  さすが、〈狂風の谷〉と呼ばれているだけのことはある。  ロープで体をくくりつけていなければ、エヒテの細いからだは今頃空中に投げ出され、崖下であっさり死体になっていただろう。  ——ここまできて、そう簡単に死んでなるもんか。 「ザイ、進めそう!?」  自分を乗せる飛龍の角を両手でしっかと握り、前のめりになって叫ぶ。  ザイは強い風に顔をしかめながらも、目下の崖に建つ建造物をしっかりと捉えていた。  少女の言葉に答えるように、ぐん、とザイのからだが降下する。  気の強い飛龍なだけあって、これしきの突風なんでもないと言わんばかりだ。  とはいえ、一瞬は降下できたものの、赤土色の鱗で覆われたザイの翼はぐんぐん押し戻されている。  風が止む気配はなく、その狂風で思うようにからだを動かせないザイは苦しそうだ。  風を受けて乾ききった(あおみどり)の目で、エヒテは崖にそびえる灰色の建造物を睨んだ。  ——あれが、〈風の龍〉の研究所。  エヒテは今、〈化石龍研究所〉の最終試験に臨もうとしていた。その場所は、もう眼前にせまっているのに、狂風のせいで降り立つことが出来ない。  もどかしくて、エヒテはぎり、と奥歯を噛んだ。  そして自分のくじ運の悪さを、心の底から恨んだ。  この国には六つの〈化石龍研究所〉が存在する。超難関試験をのりこえれば候補生となり、最終試験の受験が許可される。最終試験は六つの中の一つの研究所行われるが、候補生は場所を選べない——くじ引きで決めるからである。  エヒテが〈風の龍〉のくじを引いた時、試験管は憐れむようにエヒテを見て、教えてくれた——〈風の龍〉の研究所で合格をもらえるのは、五百人に一人もいないのだと。  他の五つの化石龍研究所の最終試験では、三十人に一人は合格するそうだ。それを聞いてエヒテは唖然とした。  最終試験の内容はどこも極秘なので、一体なにが他の研究所と違うのが、詳しいことは何も分からないまま、エヒテは〈狂風の谷〉に来たが——今、その理由わかった気がする。  試験以前に、そもそも、研究所にたどり着けないのだ。  ——それでも諦めるわけにはいかない。化石龍に会って、聞きたいことがあるのだから。
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