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ふと、握手をしたときに触れた冷たい手を思い出し、ほんのすこしだけ寒気がはしった。
「では、夕食のときにまた呼びに来ます。それまでどうぞ休んでいてください」
そう告げると、イオロスは静かに部屋を出て行った。
扉が閉まり、広い部屋にザイと二人だけになる。エヒテは早速ザイの背の荷物をおろして、木製の寝台に腰掛けた。ザイもその隣の敷物にぺたりと座った。
「つかれた? ザイ」
腕を伸ばして赤土色の硬い鱗を撫でる。
ザイはフンと鼻を鳴らした。このくらいどうってことない、と言っているみたいだけど、細く伸びるヒゲはへたりと床についている。
「三日も乗せてくれてありがとね。ザイがいてくれなきゃ、絶対たどり着けなかったよ」
エヒテが額を撫でると、ザイは気持ちよさそうに目を閉じた。
「どんな試験がはじまるのかな。……会えるのかな、ウィネトアに」
そのとき、ふっと風に撫でられた気がして、エヒテははっと周りを見た。
天窓は開いていないし、扉もしまっている。けれど隙間風にしては、全身を包み込むような勢いがあった。
ザイを見つめると、瞼を閉じたままだ。赤土の飛龍たちは体力自慢が特徴だけれど、さすがにつかれてまどろんでいる。
その長いまつげを見つめていると、エヒテも眠くなってきた。そっと鱗から手をはなし、寝台にぱたりと倒れこんだ。
瞼は吸い込まれるように閉じ、エヒテは一瞬で眠りに落ちた。
意識を手放す直前、また、風に撫でられた気がした。
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