二.北の扉

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「この国には、六体の〈化石龍〉が居る。化石龍は虹の目をもち、からだはどんな大木よりも大きく美しい。  化石龍はそれぞれ、海、森、鉱物、砂漠、雪、風の土地で、自然の力をただしく循環させるのが役目じゃ。そう、化石龍は、我らを支える自然の恵そのものなのじゃ。  自然なくしては、我らは生きられぬ。だからこそ、その力が何者にも奪われないよう、化石龍研究所が建てられた。研究所は化石龍と同じ数だけ、つまり六ヶ所に存在し、その土地の化石龍が何者にも利用されることのないように守っておる。  では一体なんの“研究”をしているのか、と聞いたな、エヒテ。そもそも〈化石龍〉は、自然に存在するものではない。ある魔術師によって創られたのじゃ。その名が気になるか。……では教えてやろう。かつて世界最高の魔術師と呼ばれた人間の名は——〈ジュタ〉という。  研究所は、ジュタが残した魔力を絶やさぬようにしている。そうしなければ化石龍たちも、自然を循環(めぐ)らせることは出来ないからじゃ。では、どうやって絶やさぬようにしているのか?  ——その方法を知る術は、一つしかない——」  エヒテがはっと目を覚ますと、部屋はすっかり暗くなっていた。大きな天窓から、満天の星空がみえた。  ぼうっと夜空を見上げ、先ほどまで見ていた夢をぼんやりと思い出す。  幼いころの夢だった。懐かしさと、すこしの寂しさが胸にこみあげてくる。  あれは、エヒテたち移動民族の長老さまが、夜になると焚き火の側で聞かせてくれた、化石龍とジュタのおはなしだ。  美しく気高い化石龍の逸話を聞くたび、化石龍への畏れと、かれらを守る研究所への憧れは高まった。  そしてエヒテは今、候補生としてここにいる。あとひとつ試験を通れば、研究所の正式な一員となる。  ごそ、と鱗が擦れる音がした。横をみると、ザイがこちらを覗き込んでいた。星明かりに映る赤土の瞳は透き通って美しい。  はっと我に返って、エヒテは慌てて寝台をおりた。  そういえばイオロスが起こしに来ると言っていたのに、日はすっかり落ちているではないか。 「わたし、寝すぎた……?」
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