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前世
目を覚ますと、すでに光のベールは解けていて、虹と黒が話しをしていた。彼らふたりだけではなく、2頭のドラゴンも傍にいる。2頭。昨日目が覚めたときには、3頭いたはずなのに。昨日の落雷のときに、どこかに行ってしまったのだろうか。遥か上にいてもしっかりと存在を確認できる大きさだから、あとでこの星を巡っている間に見つけることができるかもしれない。無事でいてくれたらいいのだけれど。
わたしの両隣にも、ドラゴンがいる。肩に乗るほどの大きさの金と銀のドラゴン。ゴールドとシルバー。可愛らしい顔でスヤスヤと眠っている。
「白っ!」
虹の隣にいたまま、黒が呼ぶ。手招きをして、こちらに来いとジェスチャーをしながら。
わたしはよろりと立ち上がり、黒たちに向かって歩き始めようとしたら、ゴールドとシルバーが両肩に乗ってキュルキュル鳴いている。ドラゴンって、こんな可愛い声で鳴くのか。小さいしね。黒の側にいるドラゴンたちは、どんな声で鳴くのだろう。
見下ろせば、一面の森が見える崖の上の大きな岩の上に3人で座り、朝食を食べる。それが虹色の彼の日常らしい。
朝食後は、ここの真裏にある海辺に行って1日の大半を過ごす。そこには虹のカフェがあり、前世のわたしは、人生の後半をそこで過ごしていたようだ。そのときのわたしは、虹を「不死鳥さん」と呼んでいたようで、わたしは「凰」、黒は「ドラゴンくん」だったようだ。
ドラゴンくんってことは、黒は、今ここにいる虹とわたし以外の生き物と同種だったということか。その頃のお友だちだったりするのかもしれない。
「朱雀は?」
黒が聞く。
朱雀は、黒がドラゴンくんだったころの相棒。相棒というわけではなかったのだけれど、いつの間にかバディ的な関係になっていたようだ。
「朱雀は、そいつらだ」
わたしの両肩に乗るゴールドとシルバーを指差すと、彼らは虹の指を目掛けて飛んで行き、ガジガジと噛んでいる。そのままその指を食べ切ってしまうのではないかと冷や冷やしたが、どうやら戯れているだけのようで、前世でもきっと仲がよかったのだろう。
黒はそのころのことを覚えているのだろうか。わたしは、何も覚えていない。今世での記憶もないというのに。ただ、虹を見ていると、本能がうずく気がして、なんだかむずむずする。これが本能だとすればだけれど。
「鳳は?」
少し怒りが帯びた声色で、黒がその名を口にした瞬間、電流が体を突き抜けた。
わたしと同じ名前。けれど、わたしではないモノを指して呼んでいる。でもわかる。そのモノはきっと、わたしにとってきっと特別だった。
本能が泣いている。自分の意思とは切り離されたところで一粒の涙がこぼれ、わたしは黒に頬を引っ叩かれた。お陰で、今度は自分の意思で涙が溢れて止まらなくなった。なんで引っ叩くの?誰なの?何なの?全然わからないよっ!!
「うぁぁぁあああぁぁん!!!」
ついには、木霊が木霊を呼ぶほどの鳴き声をあげて泣き出してしまった。森の鳥たちが、一斉に木々から姿を見せるほどに。
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