今世

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今世

しばらく辺り一面にわたしの泣き声が響き渡り、それに呼応するように、森に住むありとあらゆる住民が、抗議や慰めや励ましのための声を上げる。色々な声や感情の混ざり合いの大合唱だ。 その大合唱を、虹はまるで「しょうがないな」という表情で、黒は眉間にシワを寄せ「ったくコイツは」という表情で聞いている。そして4頭のドラゴンたちは黙々と出発の準備をしている。 しばらくするとわたしも泣き疲れ、その場にしゃがみ込んだ。すると辺り一面も静まり返り、小鳥のさえずりだけが聞こえてくる。まだめそめそ涙を流しているが、ドラゴンたちがいそいそと身繕いをしてくれた。 虹は、初めて会ったときのように炎を纏う尾の長い鳥に姿となり、黒とわたしは、2頭のドラゴンにそれぞれ乗って、この星を空から見て回った。 ほとんどは森や海で形成されていて、たまにゴツゴツしたモノが一面に広がる土地があった。人間が住んでいる場所らしいのだけれど、その場所にしか住んでいないらしい。けれど、他の土地にも移動しようとしているようで、その動きを察知し、虹がバリアを貼って今は閉じ込めている。あまりに人間の活動場所が広がると、木々や水が殺されてしまうから、と。「人間にはトラウマがあるんだ」と呟きながら、人間の住む土地を通り過ぎ、その先に見えた崖の上の何かの住処に一端降り立った。 「ここが、白が凰だったころの住処だ。ここで、正しき対と鳳凰になり、この星を治め導いていくはずだった。それなのに...」 「人間に邪魔された」 虹に続き、黒が口を開く。 やっぱり、黒はドラゴンくんだったころのことを覚えているのだろうか。 わたしがかつて住んでいたというこの場所を見回してみるも、わたしたち以外に誰かの気配は感じない。遠くの方に屋根らしき物が見えるけれど、あれでは雨風には耐えらそうにない。少し歩いて回ってみようとしたところで、虹に止められた。 この先には行ってはいけない。君は、この先を見てはいけない。と苦痛そうに顔を歪めながら。 でもわたしは違った。たぶんそうじゃない。それじゃダメ。わたしはこの先を、見て回らなければいけない。そして... 「わたし、この星で住むなら、ここがいい。ここに住みたい。そして、あなたを守りたい。」 すぐ隣には、黒がいる。 ふたりをひとつの光がつつみ、宙に浮きはじめ、黒がゴールドやシルバーのボスのようなドラゴンの出立に変わり、辺りに響き渡る雄叫びをあげる。 わたしはその黒に守られるように、黒の全身に包まれながらドラゴンの化身になって、かつて住んでいたという土地を見て回る。 前世でのわたしは、この星に鳳家の長女として生まれ、この星の定めに則り、この星の運命を司る存在となった。正しき対の鳳と結ばれ鳳凰となり、この星に末永い安定をもたらすはずだった。けれど、人間にすべてを奪われ、わたしを不死鳥さんの力で違う星に生まれ変わらせている間に、鳳家は崩壊。子孫が細く細く残ってはいるようだけれど、身を潜めながら暮らしている。しかし、それも時間の問題。ひとり、またひとりと人間に取り込まれ、ハーフの子が生まれ、いずれは鳳家の血は薄まり、完全に消滅するときが訪れる。 このままでは、この星は守れない。鳳家のように乱暴に傷つけられ、いずれこの土地のように、生き物が住めるような場所ではなくなる。 虹の、不死鳥さんの力だけでは、それを食い止めることは難しいだろう。彼は、この星そのもの。それなのに、いずれ人間は彼をも捕まえに来るはずだ。 「わかった。不死鳥さんの仰せの場所に住む」 「その呼び方、懐かしいな」 不死鳥さんは、嬉しそうに微笑む。 かつて鳳家があったこの場所に、光に包まれながら宙に浮くわたしたちに、どうやら気づいた者がいる。睨み合い。 ならば、と、その者を威嚇するように光を放ち、わたしたちの存在の訪れを告げた。不死鳥さんは渡さない。 かつて鳳凰が運命を司り治めていたこの星は、今この時をもってその座にドラゴンが鎮座する。 そして、再び同じ過ちが起きたときには、終わる星の行く末を今度は見ることになるだろう。 そんな予感を抱きながら。
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