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翌朝、浩二の言う通り雨は上がっていた。
二人でチラシとポスターに載せる広告スポンサーの依頼に出かける。
スポンサーと言っても、毎度お馴染みの行きつけの居酒屋、スーパー、定食屋、コンビニにお願いするのだ。
広告料はチラシの裏面一枠、五千~一万円。
どこの店にしても、お付き合いのカンパの様なものだ。
今日は二人ともバイトが休みの為、夜の稽古までには十分時間がある。
目標は20店まわる予定にした。
昼食をいつもの定食屋でとることに決め、それぞれ¥500円のA定食を注文する。一万円の広告枠をお願いするも、大将は快く承諾してくれた。その上、御祝儀とばかり、広告料の倍の額を包んでくれた。おまけに定食は大盛だ。
いつもの事ながら、なんとかこの厚意にはどこかで応えたい気持ちでいっぱいになる。
二人共、自分探しを続けながら今のこの場所にたどり着いた時、浩二と「何があっても一年は頑張ろう」と決めていた。そして二年が過ぎた。
いっまでも皆の好意に甘えてばかりもいられない。
浩二と夕方まで歩き回り、それなりの成果を上げることは出来た。
がしかし、広告掲載のお願いをするために、昼食は2回とり、スーパーではいつもより多めの買い物をする破目になり、個人的には大出費になってしまった。
しかし沢山の好意と応援の声に、また前を向いて歩けそうだ・・・
稽古場に向かう足取りは、昨日よりはるかに軽かった。
「なぁ、裕・・・これだけ皆から応援されていて、俺たち幸せだと思わないか・・・」
「もちろん思うよ。」
「だから、その応援やお金で自分達の好きな事だけやってていいんだろうか?」
浩二は真顔で言う「もっと、あの人たちに喜んでもらえる事を考えなきゃいけないんじゃないのか?」
「僕もそう考えていたんだ・・喜んだり、感動したりしてる顔が見たい」
「そうだよな、どうすればいいかはまだ見えないけど、ただこうして続けているうちに、応援してくれる人が増えて来た事は確かだ。」
「応えなくちゃいけない!今はここで辞めるわけにはいかない!」
「同感だ!」
「裕、稽古にいくまえにちょっと買い物して来るから先に行っててくれ。」
「まだ買い物するのかよ」
「傘、これからの季節必要だろ。」
「そうだな、僕もいくよ」
日はだいぶ長くなったものの、六月の空は黒い雨雲に覆われて
、今にも雨が降り出しそうな気配だ。
公演初日の頃には梅雨も明けているだろう・・・
第一部【 完 】 ~ 次作に続く
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