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「金がないなら知恵をしぼれ」
そう切り出したのは主宰の山下さんだ。
この劇団はもともと金はない。今回の公演の劇場費も団員のバイト代から何とか捻出した。しかしながら役者のギャラは勿論のこと、外注スタッフの照明さん、音響さんに支払うお金のメドさえ立ってない。
この状況で初日の幕を開ける事が出来るだろうか?
そんな中での先ほどの山下さんの発言だ。
立ち上げニ年目の劇団。僕、裕一郎と小学校の同級生の浩二、そして山下さんの三名が設立メンバーだ。
メンバーといっても、僕ら三人と女性二人の弱小劇団。これまで二年間で五回の公演を行ってはいるが、毎回毎回、公演資金の調達には苦労して来た。
浩二と一緒に歩く稽古場からの帰り道は、会話もなくただ下を向いて歩いていた。空気の中に雨の匂いを感じて、梅雨が近いことに気が付き、また憂鬱な気分に陥る・・・
「裕一郎、コンビニ寄るぞ!」
「おう」
いつものコンビニに寄り、浩二の部屋で一緒に夕食をとることにする。
夕食といってもコンビニ弁当だ。
「裕、どう思う・・・」
食事を終えた浩二が口を開いてきた。
「毎回毎回、資金繰りに苦労して、肝心な芝居の稽古に身が入らない、これでいいのか・・・俺達?」
「しょうがないよ、どちらが大事というよりも、両方とも必要な事だし、僕らには今ここしかないんだ。」
「そう言って二年だぜ・・ちっとも変わらない。このままだと三年後、五年後も同じだと思う。」
「確かに・・・」
「最近、稽古場に向かう足が重いよ・・・」
「・・・・・・」
二階の窓ガラスを雨が打つ音が聞こえて来た。これから公演初日まで、長い梅雨が始まる。
「裕、お前傘持ってないだろう」
「うん」
「うちにも傘はないから、泊まってたいけよ。明日の朝には上がるだろう・・・」
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